ニューヨークからのレポート ~元日本代表戦士たちのMLB戦記・前田健太編~

2016年11月2日 コラム

文=Daisuke Sugiura

「適応能力に優れた投手という印象。試合の作り方、勝ち方を知っているピッチャー とも言い換えられると思う」(MLB某チームスカウト)
「制球力が優れているだけではなく、自分の持ち球を最大限に生かす方法を知っている。 元ドジャースの先輩でもある黒田博樹に共通点が多いように感じる」(テレビ局“NY1”のスポーツレポーター、ザック・タワタリ氏)

 これらのメジャー関係者の言葉を聴けば、ドジャースで1年目のシーズンを終えたばかりの前田健太が高く評価されていたことが伝わってくるはずだ。

 28歳にして米国デビューを飾ったオールドルーキーは、1年目から16勝(11敗)をマーク。チーム最多の勝利数を記録しただけではなく、防御率3.48、175回2/3 を投げて179奪三振という数字が示す通り、内容も良かった。
 さすがに疲れが出たか、プレーオフでは3試合で合計8失点と崩れたのは悔やまれる。しかし、大黒柱のクレイトン・カーショウをはじめ、シーズン中は故障者続出したドジャースの中で、チーム1のイニング数を稼いだ健闘は讃えられてしかるべき。嬉しい誤算になった“マエケン”の頑張りがなければ、ドジャースはそもそもポストシーズンに進めていなかったはずである。

「ベースボール、生活の両方で適応しなければいけなかったことを考えれば、ケンタにとって特別なシーズンだった。遠征時の移動や家族のケア、さらには日程、登板間隔など、多くのアジャストメントを施してくれたことに関しては感謝しきれない。彼がいてくれて本当に良かったよ」。プレーオフ期間中にデーブ・ロバーツ監督が残したそれらの言葉にも嘘はなかったはずである。
 こうしてメジャーでも通用することを証明したあとで、前田にはぜひとも来年3月の第4回WBCでも日本代表の力になってほしいところだ。8年契約の1年目を健康体で終えただけに、ドジャース側にも異論はないだろう。故障への不安が消えないダルビッシュ有、田中将大、今オフにFAになった 上原浩治などより遥かに出場への条件は整っていると言える。

 さらに言えば、前田には国際舞台での十分な実績もある。2013年の第3回WBCでは中国、オランダ、プエルトリコ戦の3試合に登板し、15回を投げて6安打、18奪三振、3四球、自責点1とほぼ完璧な投球だった。大会公式ベストナインにも文句なしで選出。メジャースカウトも目を光らせる大舞台において、当時は注目度が高かった田中将大以上に話題を呼んだことは記憶に新しい。

 昨秋のプレミア12にも出場した前田なら、日本代表が王座奪還を狙う第4回大会にも首尾よく準備を整えてくるだろう。そして、今大会の決勝トーナメントが再びドジャースタジアムで開催されるというのも運命的に思えてくる。
 来年3月20〜22日に行われる準決勝、決勝まで、日本代表が順当に駒を進めたとすれば・・・ドジャースタジアムでは今季防御率3.22と強かった前田を、小久保ジャパンは自信を持ってマウンドに送り出すことができる。そして、晴れて“地元”に戻ってきた右腕を、ロサンジェルスのファンも温かく迎えることは間違いない。