ニューヨークからのレポート ~元日本代表戦士たちのMLB戦記・ダルビッシュ有編~

2016年10月21日 コラム

文=Daisuke Sugiura

「ダルビッシュ有はメジャーのどのチームでもエースが務まる投手。素材としてはこれまでに日本からアメリカに来た投手の中でもベストだろう」
 チーム名、名前は明かすことはできないが、メジャー某球団のベテランスカウトがレンジャーズのダルビッシュについにそう語ってくれたことがあった。

 メジャーでも1年目から16勝を挙げ、2年目の2013年には最多奪三振もマーク。そんな数字以上に、多彩な球種、スケールの大きさ、投手としてのセンスのすべてを備えたダルビッシュが、日本の枠を飛び越えた素材であることは間違いない。
 まだ奪三振以外のタイトル獲得、ノーヒッターを成し遂げていないのが不思議なくらい。来年にでもそれらの勲章を手に入れても誰も驚きはしないだろう。ダルビッシュに関しては、素材、タレントへの評価はアメリカでもそれほどに高い。

 2015年春に右肘にトミー・ジョン手術を受けたが、今年5月28日にはメジャー復帰。その後はシーズン終了まで投げ抜き、7勝5敗、防御率3.41、100回1/3で132奪三振という好成績を残した。カムバック後に速球の速度がアップしたことでも話題になった。プレーオフではブルージェイズに1試合で4本塁打を許して敗れたのは残念だったが、来季以降に期待を持たせるシーズンだったことは間違いない。
 来年8月で31歳と年齢的にも今がピーク。トミー・ジョン手術を受けた投手が元の状態に戻るのは復帰から2年目というのが通例だけに、2017年はダルビッシュにとってまさに勝負の1年になる。そして、そんなシーズンを始める前に、まずは来春の第4回WBCに出場して弾みをつけて欲しいと願うファンは多いのではないか。
 現実的な話をすれば、肘の手術から復帰したばかりの右腕をレンジャーズが3月の真剣勝負に快く送り出すとは考え難い。ダルビッシュが強硬に出場を希望すれば話は変わるかもしれないが、レンジャーズとの契約も来季が最終年だけに、本人もシーズンに集中することを望む可能性は高いだろう。

 しかし・・・そんな事情を理解した上で、それでも日本のエースが大舞台に再登場することを願う関係者は後を絶たない。
 ダルビッシュは2009年の第2回に出場し、松坂大輔、岩隈久志とともに先発3本柱を形成した。予選リーグでは先発で活躍すると、準決勝、決勝ではクローザーで登場。決勝の韓国戦では100マイルの速球を投げて勝利投手になり、大会通算では13イニングで2勝1敗、防御率2.08、20奪三振というさすがの投球を見せた。
 以降、メジャーの猛者に揉まれる中で、ダルビッシュは投手としての成熟度を確実に増している。WBCの戦場に戻ってくれば、世界中の多くのスーパースターが集うトーナメントの中でも注目選手として輝きを放つはず。そして、日本代表にとっても強力な戦力になることは言うまでもない。

 繰り返すが、周囲と本人の事情を考慮すれば、可能性が低いことは理解している。それでも、ファン、メディア、スカウトも、誰もが再びその姿が見れることを心のどこかで願っている。日本が生んだ巨大な才能は、見ているものにそんな風に感じさせずにはいられないほどの稀有なピッチャーなのである。