ニューヨークからのレポート ~MLB戦記 番外編・田沢純一~

2016年10月6日 コラム

文=Daisuke Sugiura

「(達成感は)そこまで得られてはいない。シーズン後半は投げない日も多かった。チームに貢献できなかったことは悔しい・・・」
 9月28日のヤンキース戦後―――。ア・リーグ東地区の優勝を決定した直後だというのに、レッドソックスの田沢純一の言葉はまるで“敗者”のようだった。

 名門チームの中継ぎの一角として、今季も50戦以上でマウンドに立ってきた。日本人としては3人目となる4年連続50試合以上登板は見事な記録だが、特に8月は月間防御率9.64と絶不調。もともとはセットアッパー役も、最近ではいわゆる“敗戦処理”の役割で投げるようになった。そんな自身の現状を考えれば、栄冠の美酒に晴れやかな気持ちで酔うことはできなかったのだろう。

「僕は置かれている立場もわかっています」
 9月下旬、ニューヨークでのヤンキースとのシリーズ中、田沢はそんな趣旨のコメントを複数回に渡って残していた。10月上旬からポストシーズンが始まるが、実際にこのままではプレーオフでのロースター入りも定かではない。
 来年以降の契約も微妙だろう。メジャーで6シーズンを積み上げた田沢は今季終了後にFA権を得る。しかし、2年連続でシーズン中盤以降に不振に陥ったことを考えれば、好契約を得ることは容易ではあるまい。ややガス欠を感じさせた後で、最悪に近いタイミングでマーケットに出ると言っても大げさではない。

 そんな田沢にとって、復権のチャンスがあるとすれば・・・。来春の第4回WBC 出場が叶えば、様々な意味で重要な舞台になるかもしれない。日米両方で注目される世界大会は、自身の力を再びアピールする絶好の機会になり得るからだ。
 日本プロ野球を経ないでメジャーに渡ったこともあり、田沢の日本代表入りには微妙な問題があるのだろう。ただ、今季は不振でも、好調時の田沢はメジャーでも有数のセットアッパーだったことを忘れるべきではない。

 2013年には同僚の上原浩治とともにレッドソックスのブルペンを支え、通算8度目の世界一に大きく貢献した。そこではエバン・ロンゴリア(レイズ)、ミゲール・カブレラ(タイガース)、マット・ホリデイ(カージナルス)といった各チームの強打者に真っ向勝負を挑み続けた。95マイル近い4シーム、約90マイルのスプリッターのコンビネーションを武器に、この年のプレーオフでは通算防御率1.23と大活躍したのは記憶に新しい。

 時は流れ、歴戦の疲れを感じさせる今の状態では、WBCでブルペンの一角を任せるのは不安という見方も理解出来る。ただ、例えば2013年の秋のように、強打者に対するワンポイントといった形なら、田沢の球威、修羅場を潜った経験には依然として価値があるようにも思えるのだ。

 物議を醸してのMLB入り、トミー・ジョン手術、ワールドシリーズ、そして昨夏以降のスランプ・・・アメリカで波乱の日々を過ごしてきた30歳の右腕に、来春、価値を再証明する機会は訪れるのかどうか。すべての後で、田沢がキャリアのこの時点で日本球界に貢献し、同時に自身の魅力を大舞台でアピールできれば、それはまた興味深いストーリーになるはずである。